MONSIEUR HIRE
79分 フランス


監督 パトリス・ルコント
出演 ミシェル・ブラン サンドリーヌ・ボネール 等



なんて美しく、悲しい恋愛映画なんだ…

「笑うだろうが、君を少しも恨んでないよ。
ただ死ぬほど切ないだけだ。」



主人公は、変人で周囲から嫌われている仕立て屋のイール。
彼の楽しみは、向かいに住む美しいアリスをのぞき見すること。
ある日、近所でピエレットという少女が殺される。
刑事は嫌われ者のイールを嗅ぎまわるが、イールはある事実を知っていた。
アリスの婚約者のエミールが犯人であることを。
イールののぞき見の気付いたアリスは、イールが殺害のことを知っているか調べるため、わざとイールの前でトマトを落とし、接触を試みるのだった。




個人的に、すごくどハマりしたフランス映画です。
偏見ですけれど、フランスの恋愛映画って、甘くて、官能的で、美しくて、悲劇で終わりがちな、すごく魅力的な映画が多いと思うんですが、分かりにくいっていう難点があるんですよね。
少なくとも、私にはわかりにくいです…

フランス映画のセリフってすごく詩的で、美しい言葉はたしかに並んでいる!詩として最高だ!けれど、熟考しないと意味が読み取れなくて、すらすらと右から左に流れていく!みたいなのが多いイメージ。
偏見です。ごめんなさい。
頭が悪いんです…

だけど、この作品は、分かりやすい。
話的にはすごくシンプル。
セリフが少ない。
愛情を視線で訴えてくる。
そして、禿げ頭のおじさんの恋物語なのに、すごく純愛。

イールに共感するかしないかは、見る人によると思いますけれど。


そして、音楽が素晴らしい。
もちろん、映像もすごく美しいんですよ。
でも、私はその効果的な音楽の使い方によって、一瞬でこの世界観に酔いました。

音楽は、ブラームスの『ピアノ四重奏第1番ト短調』の、第4楽章<ジプシー風ロンド>から、第2主題を繰り返して使用しているそうです。

https://www.youtube.com/watch?v=Qn2lDX9NcpA

03:07くらいから流れます!

映画視聴前に聴いてもうっとりするような旋律だけれど、視聴後に聴くと、いろんな感情が入り混じった気持ちになります。いい意味で。うっとりするけれど、泣きたくなるような、懐かしいような、ドキドキするような、複雑な気持ち。雨の日の午後に、コーヒーとか飲みながら聴いていたいです。

使われているのは一部なんですが、そのマッチ具合がすごい。
この映画の世界観を作ってる。
この曲のこの部分を使おう!ってなったのすごいよね。


たった79分ですし、内容もぼーっと見ていればさらーっと入ってきます。
すごく、重い気持ちが、官能的な美しさを帯びながら、さらーっと入ってきます。
演技がまたうまいんでしょうね。
これ、この役者さんたちの本当の人生な気がする…ってなっちゃいますし。
本当に、さらーって入ってきます。
シンプルな恋愛映画の中のベストって感じがしますね。



続きネタバレ有りの感想です!





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★★★


ラスト、イールはアリスにハメられ、警官に捕まりそうになります。
そこで、「君を少しも恨んでないよ。ただ、死ぬほど切ないだけだ。」という言葉を残して、警官から逃れるように屋根をのぼり、最後は転落死してしまいます。
落ちていくイールを見る街の人々と、アリス。
そして、ロッカーから見つかった、刑事さん宛ての、「アリスと逃げるけど、彼女は悪くないから許してくれ。」といった旨の手紙。


これ、バッドエンドなんでしょうか。
別にハッピーではないですが、バッドでもないと私は思います。

イールはアリスに恋していなければ、のぞき見がばれてアリスが接近してこなければ、誰に看取られることもなく、静かに人生を終え、静かに一人で死んでいたでしょう。
それこそ、冒頭で静かに死んで、川に捨てられていたハムスターのように、あっけない人生だったと思います。

けれど、アリスに恋したことで、アリスが接近してきたことで、確かに彼は人生を楽しんでいました。
少し早く死ぬことになったかもしれないけれど、愛に身を焦がして死ねたのは、静かに死ぬよりも幸せだったように感じます。最後には、刑事さん宛ての手紙も見つかり、アリスの犯人も捕まるでしょうし。


後味悪いって感じる方もいると思いますが、イールの境遇を考えると、いい終わりだったと思います。
人の幸せの基準って、その人がどんな人生を送ってきたかに左右されると思います。
イールには、彼女に出会えただけで、きっとそれは幸せだった。
アリスは彼にとって最初で最後のミューズ。
それほど思い焦がれる人ができて、短い間ですが接近できただけでも、彼の人生では最高の出来事だったでしょう。たとえ満足とは言えなくても。